大橋 一正 | Kazumasa Ohashi
東北大学生命科学研究科 教授
Professor, Graduate School of Life Sciences, Tohoku University
上皮組織を形成する細胞集団は、秩序化された細胞社会を形成しており、個々の細胞は動的に周囲の細胞を感知して応答し、均質な集団を維持している。これは、組織の形態形成や機能発現の上で、細胞同士がお互いの発する力や硬さに合わせて細胞骨格の再構築や構造的強度を制御するシステム(力覚応答)が存在することを示唆している。一方、その集団内に生じた異常な細胞が、周囲の正常細胞に認識され競合的に排除される現象が知られている。しかし、細胞が隣の細胞との差異を感知し競合的な排除を行うか、また、その違いを打ち消してお互いを維持するように働くのかを決定する分子機構は未だ不明な点が多く残されている。本研究は、上皮細胞層に出現した変異細胞が、周囲の正常細胞と競合して頂端側へ排出される現象において、力覚応答に関与するRhoGEF, Soloによる細胞間接着部位の力学的制御、細胞骨格の再構築制御の分子機構を解明することを目的とする。特に、変異した細胞による細胞間接着部位の力学的変化に周囲の正常細胞内のSoloが応答し、アクチン骨格と中間径フィラメントであるケラチン繊維網の再構築、デスモソーム構造の制御を行う分子機構を解明する。そのために、Soloと共役してアクチン骨格、ケラチン繊維網を時空間的に制御する蛋白質をプロテオーム解析によって同定し、その作用機構を解明する。さらに、Soloに関連する分子機構が上皮細胞の細胞間接着構造を安定化し、細胞競合を抑制して組織の恒常性に寄与する可能性を検証する。