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学術変革領域(A)「多細胞生命自律性」発足にあたって

代表挨拶

井垣 達吏 | Tatsushi Igaki

京都大学大学院生命科学研究科 教授
Professor, Graduate School of Biostudies, Kyoto University

 「多細胞生命システムはなぜ自律的か?」という生命の根源的な問いに、細胞間の競合的コミュニケーションという視点から答えを出そうというのが本領域の目的です。一研究室レベルでは突破できない壁を、様々な専門家が結集した領域全体のチームワークで切り崩そうというものです。このようなチャレンジの機会を与えていただいたこと、またこのようなワクワクする研究を自由にさせていただけることに、深く感謝しております。

 多細胞生命システムはどのようにして自己最適化するのでしょうか。近年のシングルセル解析技術の進歩により、「細胞競合」と呼ばれる細胞間コミュニケーションがその原動力になっていることが見えてきました。細胞競合とは、例えば単独では生存可能な変異細胞が野生型細胞に近接すると細胞死を起こして排除される現象です。「short-rangeの細胞間相互作用を介した状況依存的な細胞排除現象」と定義されます。ここ10年ほどで様々な細胞競合現象が生物種を超えて見いだされ、そのメカニズムが明らかになりつつあります。一方で、これまでの想像をはるかに超える数の細胞競合トリガーが存在すること、またその分子機構も多様であることを最近私たちは見いだしました。つまり、細胞競合がこれまでの想像以上に多彩な生命現象に関わっている可能性が見え始めています。

 本領域では、様々な細胞競合モデルや生理的細胞競合現象を解析するとともに、合成生物学や数理モデリングによる構成論的アプローチを加え、細胞間の競合的コミュニケーションが多細胞システムに自律性を生み出す原理を明らかにしていきます。また、細胞の競合的コミュニケーションを理解するための空間マルチオミクス解析技術を開発し、領域研究を促進します。これらの計画研究に加えて、様々な細胞競合現象や細胞競合の枠に収まらない細胞間の競合的コミュニケーション、またそれが多細胞集団に自律性や最適化現象を生み出す原理を様々なモデル生物や最先端技術、理論解析・データ解析手法などを用いて解析する公募研究に加わっていただき、領域全体で目標を達成します。そのプロセスの中でさらに新たなクエスチョンを見いだし、領域研究を飛躍・発展させることで、細胞が集まって生命システムが生まれるという生命原理の大きな謎の1つに迫りたいと考えています。

2021年11月

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