田所 優子 | Yuko Tadokoro
金沢大学がん進展制御研究所 助教
Assistant professor, Cancer Research Institute, Kanazawa University
造血幹細胞システムは、全身を巡る血液細胞を供給することによって個体の恒常性維持に寄与している。我々はこれまでに、造血幹細胞は微小環境(ニッチ)内において互いに競合状態にあり、自律的に造血の恒常性を維持していることを報告してきた。一方で、造血幹細胞は加齢とともに、リンパ球系細胞への分化能を失い骨髄球系細胞への分化に偏ったミエロイドバイアス造血幹細胞が優勢になることも知られており、「幹細胞競合による組織の最適化」とは逆行しているように見える。このように、幹細胞競合のシステムはライフステージにより変化すると考えられるが、その実態については理解されていない。最近我々は、加齢に伴って現れる異質な造血幹細胞がニッチを変化させることによって適応度を増し、老化造血幹細胞が優位となり造血老化が進展することを見出した。本研究では、組織の最適化に反した造血老化の進展に寄与する幹細胞競合パラドックスを理解し、その分子機構を解明することを目標とする。さらに、環境因子による競合的コミュニケーションの制御機構の解明を目指す(図1)